1958年、高度経済成長の入り口で誕生した初代一万円札。そこに描かれたのは、昭和の日本人にとって「お札の顔」そのものだった聖徳太子だ。憲法十七条の「和をもって貴しとなす」を説いた彼は、戦争の傷跡から立ち直り、一致団結して経済復興を目指す日本にとって、これ以上ないシンボルだった。
太子の肖像は、実は一万円札だけでなく、百円札や千円札、五千円札にも使われた「超エリート」である。彼が選ばれ続けた理由は、ヒゲや衣服のディテールが複雑で、当時の技術でも偽造が極めて困難だったからという実務的な側面もあった。しかしそれ以上に、聖徳太子という絶対的なカリスマが、戦後日本の復興という大事業の精神的支柱となっていた事実は見逃せない。