観光列車といえば、JR各社や近鉄、南海などのように「座席指定券」や「特別車両料金」として数百円から数千円の追加出費を求められるのが鉄道業界の通例です。しかし、阪急電鉄の「京とれいん雅洛」にはそのような追加課金システムが一切存在しません。大阪梅田駅から京都河原町駅までの普通運賃(大人片道410円)さえ支払えば、自動改札にICカードをタッチしてそのまま乗り込めます。
一体なぜ、阪急電鉄はこれほど贅沢な車両を一般開放しているのでしょうか。その背景には、阪急が創業期から培ってきた「すべての乗客に上質な移動体験を提供する」という企業哲学があります。もともと阪急京都線の特急は、追加料金なしでクロスシートの快適性を享受できることで長年高い評価を得てきました。雅洛はその延長線上に位置づけられたフラッグシップであり、単体で指定席料金を回収することよりも「阪急沿線全体のブランド価値向上」や「京都観光の誘客シンボル」としての宣伝効果を重視して企画された経緯があります。
近年、阪急電鉄は京都線特急の一部車両に有料座席指定サービス「PRiVACE(プライベース)」を導入しましたが、これは日常の着席通勤・移動需要に応える別枠のサービスです。「京とれいん雅洛」はあくまで全席自由席の観光特急という独自ポジションを維持し続けており、事前の座席予約システムを持たないからこそ、思い立ったその日にふらりと極上の京都旅へと出発できる稀有な列車として親しまれています。