中世から近世にかけてのヨーロッパでは、数多くの「狼男裁判」が行われ、実際に処刑された人々が記録に残っています。魔術や呪縛として恐れられた怪物の正体について、現代の医学と歴史学は複数の疾患が複合した結果であると分析しています。
最も有力な仮説の一つが狂犬病の感染です。狂犬病ウイルスに侵された人間は、中枢神経が破壊されて狂暴化し、錯乱状態に陥って他人に噛みつく行動を見せます。日光や水を異常に恐れて夜間に出歩く症状も、獣のような徘徊行動と重ね合わされました。
さらに、全身が濃い体毛で覆われる遺伝性疾患「先天性多毛症(通称:狼男症候群)」や、ライ麦に寄生する麦角菌を摂取して幻覚や激しい痙攣を引き起こす麦角中毒も、人々が人狼の存在を信じ込む大きな要因となりました。医学が未熟だった時代、理解不能な病態への恐怖が「狼男」という怪物を形作ったのです。