創業は昭和の動乱期にまで遡る。当時の神保町古書店街で丁稚奉公を経験した創業者が、「流行を追うのではなく、時代を越えて残り続ける思考の痕跡を手渡したい」と立ち上げたのが始まりだ。資本の論理が支配する現代において、その創業精神は驚くほど純度の高いまま受け継がれている。
現在店主を務める二代目の言葉が印象的だった。「うちは売れ筋のランキングを一切置かない。取次から機械的に送られてくる本をそのまま並べるなら、人間が店に立つ意味がないでしょう」。書棚をよく見ると、歴史書と先鋭的な人文書、そして独自の文脈でセレクトされた古書・専門書が隣り合わせに並ぶ。棚そのものがひとつの批評であり、思想の地図なのだ。
独自の取材によって明かされたのは、毎朝開店前の2時間、店主自らが背表紙の並びを数ミリ単位で調整しているという驚くべきルーティンだ。読者の視線誘導、隣り合うタイトルの対話、色彩のバランス。細部に宿る偏執的なまでの美学が、偶然の出会いを生み出す舞台装置となっている。