奈良における独自の空間文化を語るうえで、避けて通れない原点が存在する。1984年に空間コーディネーターの石村由起子氏が創業した「くるみの木」だ。まだカフェという言葉すら一般的でなかった時代、地元の無垢材や素朴な器、大和野菜を主役にした料理を提示し、全国のライフスタイル愛好家に衝撃を与えた。
この先駆者が蒔いた種は、40年余りの歳月を経て豊かな森へと育った。歴史ある町並みに佇む建物を再生した古民家カフェの数々は、単なるレトロ趣味の再現にとどまらない。風化した梁の力強さを引き立てるコンクリートのカウンター、現代作家のガラス器に注がれる手摘みの野草茶。過去の遺産に甘えるのではなく、現代の感性で再解釈する姿勢こそが、奈良のカフェカルチャーに通底する背骨となっている。