M-1グランプリの頂点へと駆け上がったあの瞬間、彼らの漫才は大会の潮流を決定的に変えた。令和ロマンの勝因として、くるまのアグレッシブなネタ構成が称賛される機会は多い。だが、その狂気をリアリティへと着地させ、大衆が理解できる笑いに変換していたのは間違いなくケムリの受容力だった。
受け手としての松井ケムリは、単に相手の言葉を遮るようなツッコミを行わない。くるまの放つ突拍子もない世界観を一度完全に受け止め、噛み砕き、客席が抱く違和感をピンポイントで代弁する。まるで高度なチェスの対局を思わせるその戦術眼こそが、コンビの地力を支える屋台骨だ。審査員やコアなお笑いファンを唸らせた構造の緻密さは、彼の冷静沈着な舵取りがあって初めて成立したものだった。