事件の渦中で重度の後遺症を負いながらも生き延びた夫・林健治の存在も、家族の運命を語る上で欠かせない。かつて保険金詐欺に手を染めていた事実を認めつつも、妻によるカレーへの毒物混入については一貫して疑義を呈し続けてきた。彼の語る言葉は、世間が作り上げた「悪魔のような一家」という単純な構図に、複雑な陰影を投げかける。
父親としての無力感、そして家族を守りきれなかった悔恨。残されたきょうだいたちもまた、それぞれ異なる形で世間の荒波と向き合わざるを得なかった。ある者は素性を隠して息を潜め、ある者は実名で発信を試みる。林健治が語る家族の記憶には、メディアのフレームからはこぼれ落ちた、血肉の通った生身の人間の苦悩が克明に刻まれている。