「塩分が入っていない日本酒を使えば万事解決」という考え方にも、調理科学的な観点から見ると大きな落とし穴が存在します。
ネット上では「余った大吟醸や吟醸酒を料理に使えば贅沢で美味しくなる」といった言説が散見されますが、これは明確な誤りです。吟醸酒や大吟醸酒は、米を限界まで削り(精米歩合60〜50%以下)、雑味を徹底的に削ぎ落としたうえで、酵母由来の華やかな香り成分(吟醸香:カプロン酸エチルや酢酸イソアミルなど)を引き出した酒です。この華やかな香気成分は熱に弱く、加熱すると薬品のような不快な立ち香に変質することがあります。また、米の外側に多く含まれるタンパク質由来のアミノ酸を削り落としているため、調理に必要な「旨味やコク」を付与する力自体が極めて弱いのです。
料理に最も適しているのは、精米歩合があまり高くない(削りすぎていない)「純米酒」や「普通酒」です。米のタンパク質が発酵によって分解されて生じるグルタミン酸、アスパラギン酸といったアミノ酸や、貝類にも含まれるコハク酸などの有機酸が豊富に含まれており、食材の旨味と結びついて劇的な相乗効果を生み出します。