長年愛されてきた老舗の看板を掲げながらも、厨房の奥底では静かなる革新が進行している。食通たちの間で瞬く間に注目の的となったのが、限られた常連の間だけで密かに親しまれてきた「裏名物」のアップデートと、全国の契約農家から直送される希少在来種を用いた限定メニューの本格展開だ。
名物として名高い鴨せいろや天ぷら蕎麦の陰で、熱狂的な支持を集めるのが「熟成かえし」をベースにした特製つゆの仕立てである。厳選された本枯節、宗田節、鯖節を独自の黄金比率でブレンドし、火入れの温度を季節の湿度に応じて1度単位で微調整する。長年受け継がれた甕でじっくりと寝かせたかえしが、出汁の力強い旨味と交わった瞬間に生まれる奥深いコク――他店では決して真似のできない至高の調和がそこにある。
さらに、昼と夜で異なる表情を見せる蕎麦前の拡充も見逃せない。そばがきを香ばしく炙った一品や、出汁巻き卵に旬の山菜を合わせた酒肴など、蕎麦を手繰る前の豊かな時間をも完璧に演出する仕掛けが整えられた。伝統の枠組みを守りながら現代の味覚へと鮮やかに接続する手腕は、まさに老舗の真骨頂といえる。