現在、正式名称を「野宮神社」とするこの社が「良縁・縁結び」の神として絶大な信奉を集めていることには、興味深い歴史の逆説が潜む。かつては斎王が現世の愛着を断ち切る「縁切り」の場であり、光源氏と六条御息所が永遠の別れを告げた場所でもあった。それがいつしか、悪縁を断ち切った上で真の良縁を結ぶという、より強固な祈願の場へと昇華していったのだ。
現地取材で見えてきたのは、願いを届けるための作法を重んじる参拝者たちの真摯な姿である。本殿で主祭神の野宮大神(天照皇大神)に日々の平穏を感謝した後、右手に進んだ先にある「野宮大黒天」へと向かう。ここで手を合わせた後、すぐ隣に鎮座する霊石「亀石(お亀石)」を、心を込めて撫でるのが古くからの習わしだ。祈りを込めながら撫でることで、1年以内に願いが成就すると伝えられている。指先から伝わる石の冷たさと重厚感に、訪れた人々は静かに息を呑む。