個人の人生においても、「幸運が舞い込んだ直後に災難が降りかかる」「最悪の挫折が結果として大成功の引き金になった」という経験は枚挙にいとまがありません。中国の古典『淮南子』に記された故事成語「人間万事塞翁が馬」は、国境の砦に住む老人の馬が逃げたこと(一見の不幸)が名馬を連れ帰る結果(幸運)を生み、その名馬から息子が落馬して骨折したこと(不幸)が戦争の徴兵を免れる命綱(幸運)になったという挿話です。物事の幸不幸は予測できず、容易に判断できない真理を突いています。
人生で好不調が交互に訪れるように感じられる現象に対し、ネット上では「スピリチュアルな理由」や「引き寄せの法則」を根拠とする言説が溢れています。思考が波動となって現実を創り出すとする主張や、運気の周期を説く理論は一定の慰めをもたらすものの、これらを無批判に信じ込むことには落とし穴が存在します。
科学的な心理学的アプローチによれば、この現象の多くは「平均への回帰(Regression to the mean)」と「確証バイアス」で合理的に説明がつきます。極端に運が良い出来事や悪い出来事が発生した後、統計的確率は自然と平均値へと収束していきます。大幸運の後に平凡な日常が戻れば、主観的には「運気が落ちた」と錯覚し、悪い出来事の後に状態が改善すれば「運気が好転した」と強く印象に残る仕組みです。
また、身体的・精神的な好不調の周期を指すバイオリズムの真相についても、生年月日から機械的に算出する疑似科学的な周期説は実証されていません。実際の波は、睡眠時間、自律神経の働き、ホルモンバランス、外部ストレッサーの蓄積といった生理的・環境的要因によって刻一刻と変動しています。自らの体調管理と生活習慣の乱れを「運命のバイオリズム」のせいにするのではなく、客観的な体調記録に基づいたコンディション調整が不可欠です。