正史から消された神でありながら、日本全国には瀬織津姫を堂々と主祭神に掲げる社や、密かに配祀神として守り伝えてきた神社が点在しています。2026年現在の現地取材および参拝者の動向から、特に重要な代表的社を検証します。
武蔵国一之宮である小野神社(東京都多摩市・府中市)は、かつて武蔵国府の近傍に位置しながら、主祭神に「天火明命(アメノホアカリ)」とともに「瀬織津比咩命」を明記している極めて稀有な古社です。多摩川の氾濫原に位置することから、荒ぶる暴れ川を鎮める強力な水神として、地域豪族の手で篤く祀られてきました。現地を訪れる参拝者からは「都心のベッドタウンにありながら、鳥居をくぐった瞬間に肌が粟立つような鋭い清浄感がある」との声がSNS等でも多数報告されています。
滋賀県大津市の瀬田川沿いに鎮座する佐久奈度神社(さくだのじんじゃ)は、天智天皇8年(669年)の創祀と伝わり、大祓詞の冒頭に登場する「佐久那太理(さくだり)」の地名そのものを冠する祓戸四神の本拠地です。境内は瀬田川の急流を見下ろす要衝にあり、古代の朝廷が都の境界においていかに穢れの侵入を防ごうとしたかを肌で実感できる聖域です。
さらに、巨石信仰と結びついた兵庫県神戸市の六甲比命神社(ろっこうひめじんじゃ)も外せません。六甲山上の険しい山中に突如として現れる高さ十数メートルの巨石(磐座)そのものを御神体としており、古くから弁財天や瀬織津姫の降臨地として行者たちに守られてきました。近年はネットの拡散によってトレッキング装備の若い参拝者が押し寄せており、静謐な祈りの場としての維持とツーリズムのあり方が現場での課題となっています。
また、東北地方の霊峰を仰ぐ早池峰神社(岩手県花巻市・遠野市)も重要です。民俗学者・柳田國男の『遠野物語』にも影を落とす早池峰山信仰の根底には、山岳信仰と結びついた瀬織津姫の影が色濃く残されています。朝廷の力が及びにくかった東北の地において、記紀神話の検閲を免れた古代の女神信仰が、色鮮やかな神楽(早池峰神楽)とともに奇跡的に息づいています。