コーシー・シュワルツの不等式を真にマスターする第一歩は、なぜこれが無条件に成立するのかを完全に納得することです。数学系学術サイト「数学の景色」や「高校数学の美しい物語」でも広く紹介されている代表的な証明法には、代数的な美しさを誇る「2次方程式と判別式」のアプローチと、視覚的に明快な「ベクトルの内積」のアプローチが存在します。
アプローチ1:実数 $t$ の2次式と判別式を用いたエレガントな証明
任意の実数 $x_k, y_k$ に対し、実数変数 $t$ を用いた次の2次式を考えます。実数の2乗は常に0以上であるため、以下の関数 $f(t)$ はすべての実数 $t$ で常に非負です。
$f(t) = (a t - x)^2 + (b t - y)^2 \geqq 0$
この式を展開して $t$ について整理すると、次のような $t$ の2次式が得られます。
$f(t) = (a^2 + b^2)t^2 - 2(ax + by)t + (x^2 + y^2) \geqq 0$
$a^2 + b^2 > 0$ のとき、この2次関数が常に0以上となるための条件は、2次方程式 $f(t) = 0$ が実数解を高々1つしか持たないことです。したがって、判別式 $D$ について $D/4 \leqq 0$ が成り立たなければなりません。
$D/4 = (ax + by)^2 - (a^2 + b^2)(x^2 + y^2) \leqq 0$
両辺を移行すれば、直ちに $(a^2 + b^2)(x^2 + y^2) \geqq (ax + by)^2$ が導かれます。2乗の和がゼロ以上という自明の公理から判別式を経由して不等式を導出するこの解法は、3変数以上の拡張においても全く同一の論理で成立するため、数学的帰納法を用いずに一般形を証明できる極めてエレガントな手法です。
アプローチ2:ベクトルの内積と三角関数の性質による幾何的証明
もう一つの直感的なアプローチがベクトルの内積の定義に基づく視点です。2次元平面ベクトル $\vec{u} = (a, b)$ と $\vec{v} = (x, y)$ を設定します。内積の定義式は以下の通りです。
$\vec{u} \cdot \vec{v} = |\vec{u}| |\vec{v}| \cos\theta = ax + by$
ここで $\theta$ は2つのベクトルのなす角であり、任意の $\theta$ に対して $-1 \leqq \cos\theta \leqq 1$、すなわち $|\cos\theta| \leqq 1$ が成立します。この絶対値の性質から次の不等式が導かれます。
$|\vec{u} \cdot \vec{v}| = |\vec{u}| |\vec{v}| |\cos\theta| \leqq |\vec{u}| |\vec{v}|$
両辺を2乗すると $(\vec{u} \cdot \vec{v})^2 \leqq |\vec{u}|^2 |\vec{v}|^2$ となり、成分で書き下せば $(ax + by)^2 \leqq (a^2 + b^2)(x^2 + y^2)$ が得られます。この幾何的解釈を知っておくだけで、公式の形をど忘れした際にも瞬時に頭の中で再構築することが可能になります。
絶対に見落とせない等号成立条件の論理構造
入試の答案添削で最も失点が多い部分が等号成立条件の記述です。等号が成立するのは、幾何学的には $\cos^2\theta = 1$、すなわち2つのベクトル $\vec{u}$ と $\vec{v}$ が平行(同方向または逆方向)のときに限られます。成分比で表現すると以下の関係です。
等号成立条件:$a : b = x : y$(または $ay - bx = 0$、分母が0でない場合は $\frac{x}{a} = \frac{y}{b}$)
判別式の証明から見ても、等号成立は判別式 $D=0$、すなわち $f(t)=0$ が重解を持つ瞬間であり、各項 $a t - x = 0$ かつ $b t - y = 0$ を同時に満たす実数 $t$ が存在する条件と完全に一致します。この比の整合性を確認せずに単に最大値・最小値の数式だけを提示しても、満点答案としては認められません。