写真という媒体は、一見すると「動かぬ客観的証拠」のように映ります。しかし、撮影者、日時、場所、被写体の身元が厳密に特定されていなければ、文脈をいかようにも改変できてしまう危うさを孕んでいます。このメディア特性こそが、南京事件写真の真相をめぐる論争を長期化させてきた根本的な原因です。
戦後長らく、事件をめぐる議論では「事件の存在を証明したい側」と「事件の規模や信憑性に疑問を投げかける側」の双方が、それぞれに都合の良い写真を提示し合ってきました。その過程で、出所が定かでない写真や、別の地域・年代で撮影された日中戦争当時報道写真が「南京での虐殺の決定的証拠」として無批判に拡散された事例が少なからず存在します。
これに対し、近年の専門家による南京事件写真の検証まとめでは、写真を「本物か偽物か」という極端な二者択一で裁くのではなく、フィルムの原版、撮影者の日記、軍の作戦記録、外交文書といった複数の一次史料と突き合わせる厳密な照合作業が定着しました。結果として、プロパガンダや誤認によって紛れ込んだ写真が炙り出されると同時に、否定の余地がない生々しい現場記録の存在が浮き彫りになっています。