サヘラントロプス・チャデンシスが「人類」として分類される最大の根拠であり、長年激しい論争の的となってきたのが直立二足歩行の有無です。
当初の根拠は、頭蓋骨の底部にある「大後頭孔(脊髄が通る穴)」の位置でした。四足歩行を行うチンパンジーでは大後頭孔が頭骨の後方に位置しますが、サヘラントロプスでは頭骨の真下近く、前寄りに配置されていたのです。これは頭部を垂直に伸びた背骨の上で支えていた、すなわち直立姿勢をとっていた強力な証拠とみなされました。
この仮説をさらに決定づけたのが、頭骨と同一地点から回収されていた左大腿骨および左右の尺骨(前腕の骨)の精密な生体力学的解析です。国際研究チームがマイクロCTスキャンを用いて骨の内部構造や皮質骨の厚み分布を徹底検証した結果、以下の事実が明らかになりました。
- 大腿骨の断面構造:直立二足歩行時に特有のねじれ応力や荷重パターンに耐えうる形態的特徴を備えていた。
- 尺骨の頑丈さと湾曲:樹木の枝をしっかり掴んで移動する「樹上運動適応」を色濃く残していた。
これらの知見から導き出された結論は、サヘラントロプス・チャデンシスが「地上では二足歩行を行い、樹上では腕を使って巧みに移動する複合的な移動様式」を持っていたというリアリティです。完全な地上性へと移行する過渡期の姿が、確かな物証とともに解明されつつあります。