選手としての晩年、阿部監督は度重なる怪我や体力の限界と闘っていた。首位打者や打点王、そしてMVPなど、ありとあらゆる栄誉を手にした男にも、等しく「衰え」の波はやってくる。その苦しい時期、最も近くで彼の葛藤を見ていたのが悠香さんだった。
2019年の現役引退、そして二軍監督から一軍ヘッドコーチを経て、監督へと就任するプロセスは、家族にとっても激動の連続だったはずだ。選手時代とは異なり、監督という立場はチーム全体の責任を背負う。勝てば選手の手柄、負ければ監督の責任とされる厳しい世界だ。家に帰っても野球のことで頭がいっぱいになる夫を、彼女はあえて「いつも通り」に迎えることで、精神的な安全基地を提供し続けた。