このブームが社会全体を巻き込む巨大なトレンドへと昇華した瞬間がある。1993年に放送された連続テレビドラマ『ポケベルが鳴らなくて』の登場だ。作詞家・プロデューサーの秋元康が企画を手掛け、主演の裕木奈江が歌う同名主題歌は大ヒットを記録。連絡が取れそうで取れないもどかしさ、ポケットの中の電子音が鳴る瞬間の跳ねるような高揚感が、そのまま時代の空気感として刻み込まれた。
ドラマのヒットを機に、ポケベルは単なるビジネスマンの連絡ツールから、若者たちの恋愛や友情を媒介する必須アイテムへと完全にシフトした。ベルが鳴らない夜の孤独と、画面に表示された数字を解読した瞬間の安堵感。通信機器が個人の内面とこれほど密接に結びついたのは、日本のメディア史においても画期的な出来事だった。