史進の代名詞である「九匹の龍の刺青」。それは単なる若気の至りや装飾ではなかった。全身に龍を刻むという行為は、宋代の社会規範に対する強烈な挑発であり、自らの肉体を社会の外側へと追放する覚悟の証でもあった。
龍は古来、皇帝の象徴であり、至高の権威を表す神獣だ。庶民がそれを身に纏うこと自体が、ある種の不敬と反骨の表明に他ならない。しかも一匹ではなく「九匹」。完全を意味する最大の陽数「九」を身体に刻み込んだ史進は、生まれた瞬間から定められていた裕福な地主のレールを自ら叩き壊したのだ。
棒術の指南役である王進との出会いによって、未熟な腕自慢から本物の武芸者へと脱皮を遂げた史進。その肌に浮かぶ青龍は、彼が背負う孤独と、仲間を守るために身を捧げる覚悟そのものだった。