九龍城に住んでいた人々の真実|東洋の魔窟の生活実態と解体後の行方を詳しくリサーチ! 読者が気になる トピックの裏側を凝縮して配信します。

九龍城砦の終末期、外部の好奇の目に晒される中で、砦に深く足を踏み入れた日本人たちの記録も貴重な一次情報となっています。写真家の宮本隆司氏が大型カメラで捉えた静謐かつ狂気じみた建築群の記録や、建築家・学術調査団が解体直前に敢行した精密な実測調査は、世界的に極めて高い評価を受けました。

さらに、当時の特番報道でも話題を呼んだように、「家賃が香港の市街地に比べて圧倒的に安いから」という身も蓋もない理由で、一人で砦内に部屋を借りて生活した日本人男性の滞在記録も存在します。彼が語った生活の真実は、メディアが煽るような血生臭いスラムの恐怖とは大きく異なっていました。

「最初は階段を上るだけで心臓が縮み上がる思いだったが、朝になれば屋台のおばちゃんが笑顔で粥をよそってくれ、路地では職人が黙々と働き、夕暮れには各家庭から中華鍋を振る音と家族の笑い声が漏れてくる。日本の昭和30年代の下町長屋を、そのまま縦方向に積み上げたような、泥臭くも温かい人間の営みそのものだった」

外から見れば不気味なコンクリートの塊でありながら、その内側には、社会の周縁に押し込められた貧困層や難民たちが必死に築き上げた、驚くほど健全な「生活の場」が脈打っていたのです。