救急救命士を目指す受験生が最初に直面するのが、「4年制大学」と「3年制(一部2年制)専門学校」の選択です。どちらを卒業しても救急救命士国家試験の受験資格は同等に得られます。カリキュラム上で行う処置の法的権限に差が生じるわけでもありません。それにもかかわらず、なぜ大学進学を選ぶ層が増え続けているのか。その背景には、地方公務員である消防吏員の給与・人事体系が深く関係しています。
総務省が公表する「地方公務員給与実態調査」および各自治体消防本部の採用データによると、消防吏員の採用区分は明確に「大卒程度(Ⅰ類・上級)」と「高卒・短大・専門卒程度(Ⅱ類・Ⅲ類・初級)」に分かれています。東京都の東京消防庁をはじめとする主要都市の消防本部において、初任給の時点で月額約3万〜4万円前後の開きが存在します。
さらに見過ごせないのが、採用後の階級昇任試験における受験資格年数です。多くの消防本部において、消防士から消防副士長、消防士長へと昇任試験を受けるために必要な実務年数は、大卒区分のほうが短く設定されています。昇任が早ければ基本給のベースアップ速度も加速するため、30代後半から40代にかけて年収差は拡大し、退職金や生涯賃金で見ると約2,000万〜3,500万円規模の経済的格差が生じるケースが一般的です。
もう一つの決定的な差は、消防士採用試験に万が一落ちた際の進路選択の幅です。専門学校は最短距離で資格取得を目指せるカリキュラムが組まれている反面、消防不合格となった場合に一般企業の総合職採用へ舵を切ることが容易ではありません。一方、大学であれば「大卒」の学歴をベースに、医療機器メーカー、製薬企業、一般企業の危機管理部門、警備保障会社など幅広い業界へ方向転換が可能です。この「撤退戦における強さ」こそが、保護者層から大学進学が強く支持される理由となっています。