発祥の地を巡る地図は、北海道と山形だけで完結しない。岩手県遠野市を訪れると、誰もが目を丸くする光景に出くわす。穴を開けたブリキのバケツに固形燃料を放り込み、その上に鍋を載せて屋外で豪快に羊を焼く「バケツジンギスカン」だ。
遠野もまた、戦前から綿羊飼育が盛んな土地だった。昭和30年代、精肉店の店主が花見や野良仕事の合間に手軽に熱々の肉を食べられないかと考案したこのシステムは、瞬く間に地域全体へ浸透した。道具を進化させ、生活の隙間に食い込ませる。文化が真に「発祥」する瞬間とは、こうした名もなき生活者の現場にこそ宿る。