「なぜ公式オンラインショップを開設しないのか」「百貨店の催事に出店してほしい」――全国のファンから寄せられる熱烈な要望に対し、京都の確固たる実力店は首を縦に振りません。取材を進めると、そこには単なる頑固さではなく、菓子職人としての極めて合理的かつ妥協なき品質管理の論理が存在していました。
最大の障壁となっているのが、時間経過による品質劣化の速さです。例えば、京都の生菓子を代表する出町ふたば 名代豆餅に代表される朝生菓子は、蒸したての餅米の水分量、赤えんどう豆のふっくらとした食感、そして滑らかなこし餡の糖度設計が「購入した当日の数時間以内」に最高のピークを迎えるよう緻密に計算されています。餅はわずか数時間で硬化が始まり、冷蔵配送を行えばデンプンが不可逆的に老化してボソボソとした食感に変わってしまいます。冷凍技術がどれほど進歩しても、解凍時に水分が分離し、職人が意図した口どけを再現することは不可能です。
もう一つの決定的な要因は、製造キャパシティと手作業の比率です。機械による大量生産ラインを持たず、気温や湿度に応じて小豆の炊き加減を微調整する熟練職人の手技に頼る現場では、1日に供給できる数量が物理的に限られています。需要に合わせて通販を開放すれば、毎朝店頭に足を運んでくれる地元住民や旅人の手に渡らなくなってしまう。地域との結びつきと出来立ての味を守り抜く姿勢こそが、彼らが全国展開を選ばない本質的な理由です。