「最初はただ、館内に猫が入らないように業務を果たしていただけでした」。馬畑幸裕(警備員)は当時の様子を振り返り、優しく目を細める。しかし、攻防が何年も続くうちに、二人の間には言葉を超えた確かな信頼関係が芽生えていった。ケンちゃん(黒猫)は力づくで侵入しようとするわけでもなく、ただ馬畑さんに撫でてもらいたいかのように、毎日決まった時間に美術館の前にたたずむ。
馬畑さんもまた、ケンちゃんが姿を見せると、業務の厳格さを保ちつつも、極上の敬意と愛着を持って彼を迎えた。この人間と動物の間に生まれた絶妙な距離感と絆こそが、単なる一過性のブームに終わらず、長年にわたって人々の心を惹きつけて止まない最大の真相なのだ。