金星の雲中に異変が報告されたのは、カーディフ大学のジェーン・グリーブス教授らが大気スペクトル分析データを発表したときだった。大気中に微量のホスフィンが検出されたというニュースは、世界中の天文学者に驚きと疑問を投げかけた。地球上においてホスフィンは、酸素を嫌う微生物の代謝活動や極限状態の人工合成によってしか生じない「生命存在指標(バイオシグナル)」として知られる化学物質だからだ。
当初は観測エラーやデータ処理の誤りが疑われたものの、その後の詳細な再検証や最新データによって、ホスフィンの存在を示すシグナルは根強く支持されている。非生物的な火山活動や雷、太陽光による化学反応だけでは、検出された濃度を合理的に説明することが極めて困難なのだ。MIT(マサチューセッツ工科大学)のサラ・シーガー教授をはじめとする世界の天文学者たちは、大気中に未知の生命プロセスが存在する可能性を本気で検証し始めている。