かつて映画評論家の故・水野晴郎氏が晩年にこの疾患と闘っていたことが公表され、海外では名優ダッドリー・ムーア氏が自らの闘病を明かしたことで、PSPの知名度は徐々に広がりました。しかし、公表された著名人のエピソード以上に、一般家庭の介護現場における苦悩は壮絶です。
SNSや難病コミュニティ、介護家族の手記に共通して綴られているのは、「病気による精神症状の急変に対する戸惑い」です。PSPは大脳基底核だけでなく前頭葉の神経機能も広範に障害されるため、発症後2〜3年で以下のような症状が顕著化します。
- 脱抑制と衝動性:自力歩行が危険であるにもかかわらず、制止を振り切って突然立ち上がり転倒する(いわゆる「アパシーとインパルシブの同居」)。
- 感情失禁と無関心:些細なことで泣き出したり激昂したりする一方、家族への関心が薄れたように見える。
- 急速に進む構音障害・嚥下障害:声がかすれて言葉が聞き取りにくくなり、食べ物を咀嚼して飲み込む機能が急激に低下する。
特に危険を伴うのが嚥下障害(えんげしょうがい)です。PSP患者は「食物を口に詰め込みすぎる」「十分に噛まずに急いで飲み込もうとする」という前頭葉性の衝動的食行動を起こしやすく、これが喉の奥での食物閉塞や誤嚥を引き起こします。現場で介護にあたる家族からは、「昨日までスプーンで食べていたのに、急にむせ返るようになり救急搬送された」という声が頻繁に聞かれます。早期からトロミ剤を活用し、一口量を小さくする介助や、言語聴覚士(ST)の指導による嚥下リハビリテーションを日常に組み込むことが生命線となります。