過酷な現場で高度な専門性を発揮する解剖医ですが、その金銭的リターンは決して恵まれているとは言えません。一般的に民間の病院で働く勤務医の平均年収が1,200万〜1,500万円前後とされる中、解剖医の多くは大学の教員(助教、講師、准教授、教授)という身分です。
そのため、大学から支給される基本給は年収600万〜1,000万円程度にとどまるケースが目立ちます。司法解剖を執刀した際に支払われる解剖手当(1体あたり数万円程度)も、大学の収入としてプールされたり研究室の経費に充当されたりすることが多く、医師個人の手取りが跳ね上がる仕組みにはなっていません。生活水準を維持するため、当直バイトなどを掛け持ちして生計を立てる法医学者も珍しくないのが実情です。
さらに深刻なのが法医学教室の予算不足です。高度な毒物検査機器やDNA解析装置の維持費、試薬代は高額ですが、大学病院のように診療報酬で稼ぐことができないため、常に財政難と戦っています。「遺体の尊厳を守り、冤罪を防ぐ」という崇高な使命感と情熱だけで支えられているのが、法医学の偽らざる現状です。