彼女の夫は、いわゆるキャリア官僚(国家公務員)であると報じられている。論理と制度、そして冷徹なまでのシステムの中で生きる夫の存在は、感性と直感を武器にする作家にとって、どのような刺激となっているのだろうか。異質な世界に生きる二人が交わることで、綿矢の視点にはかつてない「客観性」が加わったように見える。
特に近年の作品に見られる、組織や人間関係に対するシニカルでありながらもどこか愛おしさを感じる描写は、夫との日常的な対話や、彼の生きる世界からの間接的な影響を感じずにはいられない。感情に流されない官僚のロジックが、彼女の鋭い感性と化学反応を起こしているのだ。