芥川龍之介『鼻』のあらすじ徹底解説!結末の理由と傍観者の利己主義を徹底追究! 知っておきたい 情報と解説を凝縮して配信します。

巨大な鼻が人並みの長さになったにもかかわらず、なぜ周囲の人々は以前にも増して内供を笑ったのでしょうか。この疑問こそが、本作最大のクライマックスであり、芥川龍之介が暴いた人間の心理の核心です。

笑われた理由は大きく2つあります。第一に、「内供自身の自意識過剰とぎこちない態度の滑稽さ」です。内供は鼻が短くなったことで、以前よりも周囲の目を過剰に意識するようになりました。触るのをためらったり、周囲が自分の鼻を見ているのではないかと怯えたり、逆に得意げな表情を浮かべたりする内供の挙動不審な振る舞いが、周囲にとってたまらなく可笑しく見えたのです。

そして第二の、より根源的で残酷な理由が、「欠点を克服して得意になっている高僧への反感と嫉妬」です。周囲の人々は、巨大な鼻という致命的な欠陥を抱えていたからこそ、高僧である内供に対して内心で「自分より劣っている部分がある」と見下し、安心感を抱いていました。ところが、その欠点が消え去り、内供が一人前の顔をして誇らしげに振る舞い始めた瞬間、周囲は優越感を奪われ、不快感を募らせたのです。

周囲からの執拗な嘲笑と冷たい視線に晒され続けた内供は、次第に精神を病んでいきます。かつて穏やかだった性格は荒れ果て、下働きの童子を杖で殴りつけるほど凶暴化し、「いっそ以前のように鼻が長かったほうがましだった」と後悔の念に苛まれるようになりました。

そして迎える衝撃の結末。ある秋の夜、内供は鼻に激しい熱とかゆみを覚え、病気にかかったのではないかと不安を抱えたまま眠りにつきます。翌朝、目が覚めると鼻に懐かしい重量感が戻っていました。恐る恐る手を伸ばすと、鼻は再びあごの下を越えて5〜6寸にまで伸びていたのです。

普通であれば絶望するはずの事態ですが、内供の胸に去来したのは、かつて味わったことのない清々しい解放感でした。内供は心の中でこうつぶやきます。「こうなれば、もう誰もわらうものはないにちがいない」。異形の姿に戻ることで初めて心の平穏を取り戻すという、強烈なアイロニー(皮肉)をもって物語は幕を閉じます。