戦争を描く際、長らく主役とされてきたのは銃を構える男性兵士たちだった。その固定観念を根底から打ち砕いたのが、ノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによる名作『戦争は女の顔をしていない』だ。第二次世界大戦中、旧ソ連で50万人以上もの女性が従軍した事実を、数百人のインタビューを通じてすくい上げた圧巻のルポルタージュである。
岩波書店などから刊行された翻訳本は、コミカライズ作品などをきっかけに若年層へも一気に浸透した。看護師や狙撃手、洗濯部隊として戦場に放り込まれた女性たちの証言は、栄光や英雄的行為とは程遠い。血の匂い、恐怖、そして戦後に待ち受けていた偏見。英雄譚の陰に隠された人間性の破滅を淡々と描いた本書は、これまでの戦争文学の枠組みを根底から変えた歴史的一冊と言える。