なぜ善良な一般の施主が、相場からかけ離れた高額契約を結んでしまうのでしょうか。そこには、行動経済学や心理学の知見を悪用した、訪問販売業者による高度な心理誘導テクニックが作用しています。
最も典型的な手口が「アンカリング効果(係数効果)」と「ドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)」の併用です。
「この近隣でモデルハウスを探しておりまして、奥様の家を工事させていただけるなら、通常250万円の見積もりを、本日即決いただける条件で特別に130万円まで値引きします!」
最初に「250万円」という根拠のない法外なアンカー(基準値)を頭に植え付け、そこから「120万円もの値引き」を提示することで、施主の脳内には「今契約しなければ120万円も大損してしまう」という強烈な損失回避バイアスが発動します。しかし、冷静に平米計算をすれば、値引き後の130万円こそが適正相場の上限、あるいは相場以上の金額に設定されているのです。最初から値引きすることを前提に作られた架空の定価に騙されてはなりません。
見積もりトラブルを防ぐために絶対不可欠となるのが、最低3社からの「相見積もり(あいみつもり)」です。ただし、相見積もりにも明確な注意点が存在します。
見積書を開いた際、内訳に「外壁塗装工事 一式 1,200,000円」としか書かれていない業者は論外です。優良業者の見積書には、必ず「塗装面積(㎡数)」「使用塗料のメーカー名・正式製品名」「下塗り・中塗り・上塗りの各仕様」「シーリングのメーター数と増し打ち/打ち替えの別」「足場架設費用の平米単価」が細かく明記されています。同じ建物の見積もりを取っているにもかかわらず、業者によって外壁面積が20㎡以上もブレている場合は、レーザー測定器などを用いず目測で適当に計算している危険なサインです。
また、昨今利用者が急増している「外壁塗装一括見積もりサイト」の口コミを検証すると、便利な反面、登録業者から一斉に営業電話が鳴り止まなくなる「電話攻撃」への不満や、加盟店がサイト運営元に支払う1件あたり数万円の紹介手数料が見積もり価格に転嫁されている実態も見受けられます。一括サイトを利用する際は、電話番号非公開でチャット相談できるサービスを選ぶか、地域の塗装組合に所属する地元密着型の自社施工店へ自ら個別に問い合わせる姿勢が求められます。