江戸川乱歩という作家に対して、インターネット上や一般的なイメージではいくつかの根深い誤解が存在します。読書体験をより深めるために、これらの盲点を是正しておきましょう。
誤解1:「怪人二十面相や少年探偵団は子供騙しの作品である」
ポプラ社などの児童書レーベルで有名な『怪人二十面相』シリーズですが、大人向けの書籍として再読すると、その評価は一変します。二十面相が誇る「決して人を殺めず、芸術品のみを華麗に盗み出す」というダンディズムや、小林少年と二十面相の息詰まる心理戦は、極上のクライム・サスペンスとして成立しています。乱歩自身が持つ「変装願望」「秘密基地への憧憬」が純化された結晶であり、大人が読んでも知的なスリルを味わえる構成です。
誤解2:「乱歩はグロテスクな猟奇小説ばかり書いていた」
乱歩=エログロという先入観を持つ人は少なくありません。確かに昭和初期の一時期、大衆の要望に応えて刺激的な通俗長編を量産した時期はありました。しかし、乱歩の本質は『心理試験』に見られるような「証拠と心理分析による純粋なロジックの追求」にあります。欧米の本格ミステリーを日本に定着させようと苦闘した厳格なリアリストとしての顔と、抑えきれない怪異への憧れという「二重人格的な創作の相克」こそが、乱歩文学の真の凄みなのです。