あの追悼演説の中で最も強いインパクトを残し、視聴者に深い涙を誘ったのが、明治の重鎮・山県有朋が詠んだ和歌の引用だった。
「かたりあひて つくしゝのちは 先だてる をしきまことに 友にかへやれ」
語り合って国に尽くした後は、先に立ったあなあたの残した功績を、惜しまれる誠の友に引き継がせよう——。菅義偉氏はこの歌を朗読する直前、安倍晋三氏の執務室にあったデスクの上に、開かれたまま置かれていた一冊の書物について語った。それは山県有朋の伝記だった。
原稿を準備する段階で、菅氏はどのような言葉で友を送るべきか深く苦悩したという。推敲を重ねる中で浮かび上がったのが、安倍氏が生前最後に読んでいた本に付箋が貼られていた、この一文だった。政治的な駆け引きや建前をすべて削ぎ落とし、ただ残された者としての孤独と誓いを込めた構成。この舞台裏のストーリーこそが、ネット上で大きな話題となり、人々の胸を強く打った理由である。