日本の食卓に本格的なパスタカルチャーを定着させた立役者といえば、「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」の落合務氏をおいて他にない。日本イタリア料理協会の名誉会長としても知られる同氏が築き上げた「シンプルでありながら素材の本質を極限まで引き出す」という哲学は、長年にわたり国内の調理師たちの絶対的な指針であり続けた。
しかし、外食産業全体が激動の時代を迎えるなか、そのDNAを受け継ぎつつも全く異なるアプローチで厨房に立つ30代の新世代シェフたちが台頭している。彼らは伝統的なイタリア料理の枠組みを敬愛しつつも、発酵技術や分子ガストロノミーの手法を大胆に導入。現地の模倣にとどまらない、日本独自の気候風土と食材を融合させた「東京発の皿」を次々と創出している。
クラシックの完成度を極めたベテランと、科学的アプローチで境界線を破壊する新世代。この二極の緊張関係こそが、現在のシーンを牽引する原動力だ。