スクリーンの中に広がる「義理と人情」の世界に、当時の庶民や学生たちは熱狂した。東映が主導した『日本侠客伝』を皮切りに、高倉健が演じた義理堅い男の背中は、高度経済成長期の過酷な社会構造に疲弊した人々の胸を強く打った。義理のために命を張る男の姿は、社会の理不尽に耐える労働者の自己投影の対象でもあったのだ。
当時の日本の映画産業において、こうした任侠映画は斜陽化しつつあった映画館を満員にする救世主となった。映画館の立ち見客が発する煙草の煙と熱気。スクリーンに向かって飛ぶ「健さん!」の大声援。実在の裏社会が持つ恐怖とは対極に、銀幕の上に美化・昇華された美学は、昭和という時代の重要な文化的現象として結実していったのである。