1972年に日本レコード大賞を受賞した『喝采』で、ちあきなおみはすでにトップシンガーとしての揺るぎない地位を確立していた。名門レコード会社である日本コロムビアにとっても、彼女は最大の看板スターの一人だった。それにもかかわらず、なぜ彼女は自らキャリアを賭けてまで『夜へ急ぐ人』という危険な領域へ踏み込んだのか。
商業的な成功のレールに乗ることを潔しとせず、常に自らの表現の極限を求め続けたストイックさ。彼女にとって歌とは、大衆を喜ばせるための愛想笑いではなく、人間の業や孤独を白日のもとに晒す命懸けの儀式だったのだ。昭和歌謡の黄金期において、これほどまでに自身の芸術性に殉じた歌い手は他にいない。