音楽史の表舞台に定着した定番楽器の陰で、数奇な運命を辿った珍しい楽器の名前や、特異な音色ゆえに封印されたマイナー楽器の歴史と真相が存在します。
「演奏者を狂気に追いやる」と恐れられたグラス・ハーモニカ
回転するガラス製の半球体を濡れた指先で触れて超高域の純音を奏でる「グラス・ハーモニカ(アルモニカ)」。1761年にアメリカの政治家・物理学者ベンジャミン・フランクリンが考案し、モーツァルトやベートーヴェンもこの楽器のために楽曲を書き下ろしました。
しかし18世紀末以降、演奏者や聴衆が相次いで神経衰弱や痙攣を訴え、ドイツの一部地域で「精神を狂わせる魔の楽器」として演奏禁止令が出される事態に発展しました。現代の医学・音響学的調査によると、この真相は「高濃度鉛ガラスの接触による鉛中毒」と、「4000Hz前後のヒトの耳が音源の方向を定位しにくい周波数による聴覚野の極度な脳疲労」が複合した結果であると結論づけられています。
スパイ事件と数奇な運命を辿った世界最古の電子楽器「テルミン」
1920年にロシアの物理学者レフ・テルミンが開発した「テルミン」は、楽器本体に一切触れることなく、空間内の2本のアンテナにかざした両手の距離(静電容量の変化)だけで音高と音量を自在に操る画期的な楽器です。SF映画の宇宙船描写やサイコサスペンスの不気味なグリッサンド音として多用されました。
開発者のレフ・テルミン自身、米ソ冷戦時代にソビエト連邦の秘密警察(KGB)に拉致・幽閉され、後年には米国大使館に仕掛けられた歴史的盗聴器「ザ・シング」の開発を強いられるなど、楽器史の中でも類を見ないスパイ事件の渦中に生きた人物として知られています。
再発見される個性派マイナー楽器たち
- ハーディ・ガーディ:ハンドルを回して円盤で弦を擦りながら、鍵盤で音程を変える中世ヨーロッパ発祥の弦楽器。バグパイプのような持続低音(ドローン)とヴァイオリンの音色を併せ持ち、現代のフォークメタルやダークファンタジーゲームのBGMで重宝されています。
- アルペジョーネ:チェロのような形状にギターと同じ6本の弦とフレットを備えた弓奏楽器。シューベルトが名曲『アルペジョーネ・ソナタ』を残したことで名のみが不朽のものとなりました。
- オンド・マルトノ:指輪をはめた右手を左右にスライドさせて音程を操る初期の電子楽器。メシアンの『トゥーランガリラ交響曲』などで神秘的な音響を生み出します。