この診断テストにおける最大の関門は、「そもそも手や腕の組み方で脳の優位性が決まるのか」「人間は右脳派と左脳派に分かれているのか」という科学的根拠の有無です。結論から言えば、現代の神経科学界において「右脳型人間・左脳型人間」という性格二分論は完全な俗説(ニューロ神話)と結論づけられています。
この誤解の源流は、1960年代から1980年代にかけてノーベル生理学・医学賞を受賞したロジャー・スペリー博士らの「分離脳研究」にあります。てんかん治療のために左右の大脳半球を繋ぐ「脳梁」を切断した患者を観察した結果、言語処理は主に左半球、空間認識は右半球が担っているという「機能局在」が証明されました。しかし、この知見が一般向けの通俗心理学として流布する過程で、「左脳=論理・男性性」「右脳=直感・芸術性」という飛躍したパーソナリティ論へと曲解されていったのです。
米国ユタ大学が1,000人以上の被験者を対象に行ったfMRI(機能的磁気共鳴画像法)による大規模研究では、個々のタスクにおいて特定の大脳半球が局所的に活発化することは確認されたものの、個人レベルで「常に左脳のネットワークが優位」「常に右脳が優位」といった脳全体の左右非対称性は確認されませんでした。健康な人間の脳は、太い神経線維の束である脳梁を通じて1秒間に数十億ビットの情報を行き来させ、左右を高度に連動させて活動しています。
また、手の組み方や腕の組み方についても、関節の柔軟性、胸郭の形状、習慣的な利き手・利き腕の動作パターンに起因する身体運動の癖であり、大脳半球の優位性と直接連動していることを示す厳密な査読論文は存在しません。「科学的真実」として捉えるには無理があるのが実情です。