現在の巨大企業集団の行動原理を読み解くには、日本近代経済史の黎明期まで時計の針を戻す必要がある。そこで浮き彫りになるのは、創業者の哲学の決定的な違いだ。
江戸期に越後屋を開いた三井高利は、「店前現銀掛値なし」という当時としては画期的な商法で富裕層だけでなく庶民の圧倒的支持を獲得した。幕府の為替御用を引き受け、明治維新では新政府の財政基盤を支えることで、官金出納の特権を手中に収めた。合議制を重んじ、優秀な番頭に経営を委ねる「人の三井」の源流はここにある。
対照的なのが、土佐の地下浪人から身を起こした岩崎弥太郎だ。明治維新の混乱期に海運事業へ進出し、台湾出兵や西南戦争で政府の軍事輸送を一手に引き受けることで莫大な富を築いた。「組織の三菱」と称されるように、徹底した中央集権的トップダウンと国家戦略への同調こそが、岩崎の敷いた不変のレールだった。
「人の三井」「組織の三菱」、そして別子銅山の鉱山経営から始まり「浮利を追わず」を社是とした住友の「結束」。これら三者三様のDNAは、百数十年を経た現在の人事制度や事業投資のスピード感、リスク許容度にも如実に息づいている。