情報空間に氾濫する年金関連の言説の中には、個人の受給権を著しく侵害しかねない危険な誤解が紛れ込んでいます。特に「繰下げ受給による受給額増額(1か月あたり0.7%増)」が広く喧伝されたことで、制度の適用範囲を取り違えている人が増加しています。
誤解1:特別支給の老齢厚生年金を放置すれば増額される?
これは現場で最も被害の大きい誤認です。60歳から64歳までの間に支給される「特別支給の老齢厚生年金」には、繰下げ受給という仕組み自体が存在しません。特別支給の老齢厚生年金請求書が届いたにもかかわらず、「65歳まで我慢して後から増やして貰おう」と考えて請求書を机の引き出しに眠らせておくと、1円も増額されないばかりか、受給権の発生から5年が経過した月分から順番に消滅時効を迎えて受給権が永久に失われます。特別支給の受給資格がある人は、届いた時点で速やかに請求手続きを行うのが唯一の正解です。
誤解2:65歳の請求書を出さなければ自動的に繰下げになる?
65歳到達時に届く年金請求書を提出しない場合、行政側は「請求の意志がまだ示されていない保留状態」として扱います。確かに将来的に繰下げ請求を行う場合は65歳時点で書類を出さない選択肢もありますが、障害年金の受給権を有している場合や、病気やケガで「障害年金請求手続き」と競合している場合、無提出のまま放置すると給付調整の判断が停止し、過去の受給権関係の整理が極めて難航します。自己判断で完全放置するのではなく、ねんきんダイヤル等で自身の加入記録と繰下げ意思の整合性を確認しておく必要があります。