椎骨の背側(椎体後面)を縦走し、脊柱の過度な前屈を防ぎながら背骨の安定性を保つ重要なクッションの役割を果たしているのが、後縦靱帯と呼ばれる組織です。この靱帯組織が軟骨細胞の化生などを経て分厚い骨組織へと変化し、その後ろを通るデリケートな脊髄神経や神経根を直接圧迫してしまう病態が「後縦靱帯骨化症(OPLL)」です。
厚生労働省の疫学調査によると、日本をはじめとする東アジア人に好発する特異な傾向があり、頸椎のレントゲンやCTを精査すると50歳以上の成人の約2〜4%に骨化陰影が観察されると報告されています。ただし、骨化が存在する人すべてに重篤な麻痺が現れるわけではありません。靱帯の肥厚が脊柱管の内径を50%以上狭小化させる、あるいは軽微な外傷が加わった瞬間に、不可逆的な脊髄損傷の引き金となる点にこの疾患の恐ろしさがあります。
研究現場が提示する後縦靱帯骨化症 原因と理由として、単一の遺伝子異常ではなく、複数の遺伝的感受性(COL6A1やBMPなど骨代謝・靱帯代謝に関わる遺伝子因子)に加え、糖尿病や肥満に伴うインスリン抵抗性、ビタミンA過剰症、さらには日常的な頸椎への力学的ストレスが複雑に絡み合っていると考えられています。代謝異常と局所的な力学的刺激がスパークした結果、本来は柔軟でなければならない靱帯組織が異所性骨化を開始してしまうのです。
診断の成否を分ける後縦靱帯骨化症 初期症状は、驚くほど身近な動作の異常から現れます。首の痛みや肩甲骨周囲のこわばりに加え、指先の感覚が鈍くなり「ワイシャツの第一ボタンが留められない」「小銭を財布から指先でつまみ上げられない」「スマートフォンの文字入力速度が急激に落ちた」といった微細な指の運動障害(巧緻運動障害)が先行します。さらに下肢に影響が出始めると、「足の裏に分厚い紙や生ゴムが張り付いたように感じる」「階段の昇り降りで手すりがないと膝が抜けるように崩れる」といった痙性歩行の兆候が表出します。脳血管障害を疑って脳神経外科でMRIを撮影し、結果として異常が見つからず見過ごされてしまうケースも散見されるため、首から下の複合的なしびれには脊椎の精査が必須となります。