轟燈矢が歩んだ転落の道筋を紐解く上で、起点となるのが父・エンデヴァー(轟炎司)による「個性婚」の歪みです。オールマイトを超えるNo.1ヒーローを生み出すためだけに結ばれた契約結婚のなかで、最初に生まれた長男が燈矢でした。幼い燈矢は父以上の火力を宿しており、父から熱烈な期待を注がれて育ちます。しかし、成長に伴い発覚したのは「身体は母・冷の体質を受け継ぎ、熱に弱く火傷を負いやすい」という致命的なミスマッチでした。
身体の危険を危惧したエンデヴァーは燈矢の育成を断念し、やがて「最高傑作」と呼ばれる弟・轟焦凍が誕生します。梯子を外された燈矢にとって、それまで自己の存在意義そのものだった「父の期待」を喪失した衝撃は計り知れないものでした。見てほしい、認めてほしいという純粋な承認欲求は、父から拒絶されるたびに肥大化し、自傷行為に近い猛特訓へと彼を追い込んでいきます。
運命が決定づけられたのは、燈矢が13歳の冬でした。感情の高ぶりによって火力が跳ね上がり、炎が赤から青へと変化した瀬古杜岳(せこもりだけ)の山中で、燈矢は父に成果を見せようと呼び出します。しかしエンデヴァーは現場に現れず、絶望と興奮の極限に達した燈矢の個性「蒼炎」が暴走。摂氏2,000度を超える猛火が山林を焼き尽くし、現場には下顎の骨の一部しか残されませんでした。これが公式記録における「轟燈矢の死亡説」の経緯です。
では、なぜ燈矢は生きていたのか。猛火のなかで仮死状態となった燈矢を回収したのは、巨悪オール・フォー・ワン(AFO)とマッドサイエンティストの殻木球大(ドクター)でした。彼らは燈矢を自らの「スペアの器」候補として保護し、高度な皮膚移植と生命維持処置を施します。3年間にも及ぶ昏睡から目覚めた燈矢は、記憶を保持したまま施設を脱走し、家族のもとへ帰還しました。
しかし、そこで目にしたのは、自らの死を乗り越えて焦凍に過酷な英才教育を施し続けるエンデヴァーの姿と、歪みながらも日常を営む家族の光景でした。「自分が死んでも、この家は何一つ変わらなかった」「自分は最初から替えの利く失敗作に過ぎなかった」という絶望が、親への狂気的な復讐心へと転化。自らの名前を捨て、継ぎ接ぎだらけの肉体に黒髪を宿したヴィラン「荼毘」が誕生したのです。