なぜこれほどまでに「や 書き順 2画目 3画目」を取り違える大人が多いのでしょうか。書道教育の専門家や文字学の研究者への取材を進めると、単なる個人の記憶違いにとどまらない、日本語の文字体系特有の3つの構造的要因が浮き彫りになってきます。
最大の要因は、ひらがな「や」の成り立ち(漢字「也」)と筆順のズレにあります。ひらがなは平安時代に漢字の草書体を簡略化して生まれましたが、元となった漢字「也」の筆順は「①左の曲がり→②中央の縦棒→③右の曲がりと跳ね」という構成です。漢字の「也」では縦棒が先に書かれるのに対し、草書を経てひらがなへと変形する過程で、右側の要素が上部の点へと退行・変化し、筆順の連続性が再編成されました。この歴史的変遷のギャップが無意識の混乱を生む一因となっています。
さらに心理学的な視点では、「点を最後に打ちたくなる認知的同化」が働いています。日本語のひらがな50音書き順一覧を見渡すと、「か」「む」「ふ」「を」など、多くの文字において「付加的な短い点」は最終画に配置されています。「主たる骨格を書き終えた後に仕上げの点を打つ」というパターンが脳内に定着しているため、「や」の点も無意識のうちに最後回しにされてしまうのです。