1984年から1985年にかけて日本社会をパニックに陥れたこの事件は、単なる企業恐喝にとどまらず、マスメディアを巧みに利用して世論を巻き込む劇場型犯罪の未解決事件として特異な位置を占めています。警察庁が「警察庁広域重要指定114号事件」に指定し、投入された捜査員の数は延べ130万人、捜査対象者は12万5000人以上に達しました。
犯人グループは、江崎グリコ社長の誘拐・監禁(社長は自力で脱出)を皮切りに、同社施設への放火、さらには丸大食品、森永製菓、ハウス食品、不二家、駿河屋といった日本を代表する食品メーカーを標的に指定。マスコミや警察に向けて実に144通もの挑戦状・脅迫状を送りつけました。独特の関西弁とユーモラスかつ不気味な文体で警察の無能さを挑発するスタイルは、当時の新聞やワイドショーを通じて全国に連日報道されました。
特に社会を恐怖の底に突き落としたのが、グリコ森永事件における青酸入り菓子のばら撒きです。1984年秋から1985年初頭にかけて、大手スーパーやコンビニエンスストアの菓子売り場に「どく入り きけん たべたら しぬで」と書かれた紙が貼られた青酸混入菓子が陳列され、店頭から対象企業の製品が一斉に撤去される事態へと発展しました。死者こそ出さなかったものの、日本経済と消費者の安全神話を根底から揺るがすテロリズムに近い企業攻撃でした。