境内の中心に凛として佇む多治速比売神社本殿は、室町時代末期の天文8年(1539年)に再建された貴重な建造物だ。その優れた歴史的価値と意匠から、文化庁により国指定の重要文化財として保護されている。建築様式は三間社流造(さんげんしゃながれづくり)を採用しており、当時の高度な職人技と優美な曲線美が今なお鮮やかに残る。
特に注目したいのが、細部に施された極彩色のかえる股(蟇股)や精巧な木彫りの装飾群だ。柱や欄間に刻まれた意匠は、安土桃山文化へと繋がる華やかさと室町末期の質実剛健さを兼ね備えている。屋根の柔らかな流線形と周囲の豊かな樹木が織りなすコントラストは、まさに息をのむ美しさ。本殿の側面や背後に回ることで、正面からでは見落としがちな細部の彫刻美を堪能できる。