実際に過呼吸の発作を経験した当事者や、現場で救護に当たった人々の証言を精査すると、フィクションの描写がいかに現実から乖離しているかが浮き彫りになります。
パニック障害を抱え、過去に何度も過呼吸発作を経験している20代女性の手記には、当時の恐怖が克明に綴られています。
「発作が起きると、喉の奥が針の穴のように狭くなった感覚になり、激しい手足の硬直と『このまま死ぬのではないか』という猛烈なパニックに支配されます。そんな時に誰かに急に抱きつかれたり、顔を近づけられたりするだけでも恐怖で絶叫したくなります。もしあの苦しみの中で口を塞がれたら、助けてもらったと思うどころか、殺される恐怖でショック死していたと思います。漫画の描写を現実でやろうとする人がいるなら、今すぐやめてほしい」
また、救急救命士として多数の過換気症候群患者を搬送してきた隊員への取材でも、現場のリアルな実態が語られました。
「現場に到着した際、周囲の友人や同僚がパニックになり、患者の体を激しく揺さぶったり、無理やり水を飲ませようとして気管に詰まらせかけたりするケースが散見されます。過呼吸で最も重要なのは『外的な刺激を減らすこと』です。唇を塞ぐなどの物理的圧迫は、患者の交感神経をさらに興奮させ、テタニー症状(助産師の手のような手の硬直や痙攣)を悪化させるだけです」
SNS上では「彼氏に過呼吸のときにキスされたらびっくりして呼吸が止まり、治った気がした」という断片的な体験談が拡散されることがありますが、これはショックによる一過性の呼吸停止(スタントン効果)が偶然起きただけであり、一歩間違えれば呼吸不全や誤嚥性肺炎につながる極めて無謀なロシアンルーレットに過ぎません。