鬼の伝説を歴史的・社会的な視点から紐解くと、権力者側によって「鬼」へと仕立て上げられた人間たちの存在が浮き彫りになります。
日本三大妖怪の一つに数えられる「酒呑童子(しゅてんどうじ)」は、平安時代に丹波国の大江山を拠点に都を荒らし回ったとされる鬼の頭領です。源頼光らによって討伐されたこの物語の背景には、朝廷の支配に従わず山奥で独自の勢力を誇っていた盗賊団や製鉄民、あるいは反乱分子を制圧する国家権力の正当化があったと指摘されています。
また、桃太郎の鬼退治の原型とされる岡山県の「温羅(うら)伝説」も象徴的です。吉備地方を治めていた温羅は、百済から渡来したとされる製鉄技術の指導者でしたが、大和朝廷から派遣された吉備津彦命(きびつひこのみこと)によって討伐されました。優れた技術や異文化を持ち、中央集権に従わなかった先住民や渡来人が、後世の記録によって「鬼」として記された側面は見逃せません。