『鬼滅の刃』の鬼たちが読者の共感を呼ぶ最大の理由は、彼らが最初から悪魔だったわけではなく、理不尽な絶望や社会の底辺での苦悶の末に鬼化を選ばざるを得なかった背景があるからです。
筆頭に挙げられるのが猗窩座(人間名:狛治)の悲劇です。病弱な父のために盗みを重ねていた狛治は、父の自死後に道場主の慶蔵と娘の恋雪に出会い、人の温もりを知りました。しかし、隣接する剣術道場の卑劣な井戸水への毒混入により、最愛の恋雪と師匠を同時に惨殺されます。復讐のために素手で道場の門弟数十人を皆殺しにし、魂の抜け殻となったところを無惨に遭遇し、記憶を奪われたまま鬼へと作り変えられました。
吉原遊郭の闇を体現した堕姫(人間名:梅)と妓夫太郎の絆も胸を打ちます。最下層の遊郭で醜悪な容姿から忌み嫌われた兄と、美貌を持ちながらも客の侍の目を突いたことで生きたまま焼き殺された妹。雪の降る夜、炭化した妹を背負って慟哭する妓夫太郎の前に現れたのが、当時の上弦の陸・童磨でした。「俺たちから奪い去る奴を許さない」という兄妹の強い執念が、二人で一つの強固な鬼を生み出しました。
対照的に、黒死牟(人間名:継国巌勝)が抱えたのは、双子の弟である「始まりの呼吸の天才」継国縁壱への強烈な嫉妬と執着でした。どれほど血の滲む修練を重ねても弟の神域には届かず、痣の発現による「25歳での寿命」から逃れ、武の極致を追求するために人間性を捨て去ったのです。