現在でも立ち入りが厳しく制限される禁足地が、山中には点在する。地元神職や古老たちの間では、文書化されない口伝として、オオゲツヒメを祀る秘儀が継承されてきた。公の記録から消え去りながらも、民間信仰のしぶとさによって守り抜かれた儀礼の数々には、神社本庁の関係者も静かな関心を寄せている。
神道史の枠組みにおいて、地方神社の古義をどう位置付けるかは常に繊細な課題だ。ヤマトの神話体系に組み込まれる以前の、原生林の精霊と穀物神が混然一体となった信仰形態は、国家神道が整理した枠組を軽々と飛び越える。過疎化が進む集落の奥でひっそりと続けられてきた注連縄の張り替えや深夜の神楽は、日本神話の原型がどのような熱量を持っていたのかを無言のうちに語りかけている。