なぜ今、昭和初期の文学がこれほどのビッグプロジェクトとして選ばれたのか。背景にあるのは、世界的な文芸ドラマのブームである。西洋的な価値観や単純な恋愛模様だけでは物足りなくなった視聴者が、より複雑で奥深い人間関係を求めているのだ。
『蓼食う虫』は、夫婦関係が冷え切りながらも破局に至らない男女の微妙な心理や、西洋文化への憧れと日本の伝統美との間で揺れ動く感情を静かに描き出した名作である。新潮社から出版されて以来、日本の近代文学史に燦然と輝く本作は、多様性の尊重が叫ばれる現代において、人間の生々しい本音を映し出す鏡として再評価されている。