変形性股関節症のすべての患者に人工股関節置換術が適応になるわけではない。保存療法で疼痛管理ができている段階では、手術を急ぐ必要はない。逆に、日常生活動作(ADL)が著しく制限され、「この痛みが続くなら人生の質は到底維持できない」と感じる段階に至ったとき、手術のベネフィットはリスクを上回る。
手術を検討すべきタイミングの目安は、以下の3つが揃ったときだと専門医の間で共通認識がある。①レントゲン上で末期変形性股関節症(関節裂隙消失)が確認される、②6カ月以上の保存療法で改善しない、③夜間痛・安静時痛により睡眠障害と日常生活動作の制限が持続している。この3条件が揃った患者は、手術を先延ばしにすることで逆に筋力低下・骨萎縮・関節拘縮が進行し、術後の回復が遅くなるという負のスパイラルに陥りやすい。
一方、慎重になるべきケースも明確に存在する。コントロール不良の糖尿病や重度の末梢血管疾患、活動性の感染症がある患者は、術後感染症のリスクが顕著に高まる。BMIが35を超える高度肥満例も、脱臼・感染・早期再置換のリスク因子として知られている。禁煙は絶対条件だ。喫煙者では創部感染・骨癒合不全のリスクが非喫煙者の2倍以上というエビデンスがある。
失敗を避ける決定的ポイントは、突き詰めれば次の3つに集約される。第一に、年間手術件数の多い股関節専門医に執刀を依頼すること。第二に、セカンドオピニオンを受けて術式・固定法・摺動面の選択理由を納得できるまで説明してもらうこと。第三に、術後のリハビリテーション計画と生活指導(脱臼予防・体重管理・運動習慣)を最後まで遂行する覚悟を持つこと——。インプラントの性能差は確かに存在するが、長期成績を左右する最大の変数は「誰が、誰に、どうやって入れたか」であり、その後の生活管理にほかならない。